プロコフィエフ:バレエ《ロメオとジュリエット》から10の小品 作品75より
第2番/情景、第3番/メヌエット、第4番/ジュリエット、第6番/モンタギュー家とキャピレット家
1934年から35年にかけて作曲されたバレエ《ロメオとジュリエット》は、およそ15年に及んだ西欧滞在を切り上げてモスクワに定住したプロコフィエフが、最初に作曲した重要作である。34年にソ連最高会議幹部会発行の日刊機関紙「イズベスチヤ」に発表した「新単純主義」の実践例でもあり、シンプルで力強い様式を特徴としている。プロコフィエフ自身によるオーケストラ組曲が3種類、それに1937年に作曲されたこのピアノ独奏用の組曲がある。(石田一志記)
スクリャービン:《演奏会用アレグロ》作品18
1896年、自作品のパリ・デビュー・リサイタルで作曲者自身により、初演されたという記録がある。このころまでのスクリャービンは、作曲家というよりはむしろピアニストとしての評価が高かった。リスト風の華麗な演奏技巧に貫かれていて、4分の4拍子、ソナタ形式で書かれている。(岡田敦子/春秋社「スクリャービン全集」より)
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第9番 作品68《黒ミサ》
《黒ミサ》という標題は、第7ソナタとの対比で友人のポドガエツキがつけた。おそらくこの作品後半の呪術的な高潮に由来するものであろう。スクリャービン自身も、この曲が悪魔的であることは認めていたという。
作曲はソナタ第6、第7番の完成直後の1911年に着手され、2年後の1913年夏に第10番とともに完成した。初演は同年10月30日にモスクワで、作曲者自身によっておこなわれている。
単一楽章構成。「伝説的に」とあり、全体はほぼソナタ形式に従っているが、再現部は展開部のつづきのようなテクスチュアをとっていて、呪術的な高揚のなかの一局面に過ぎない。テンポは、モデラート・クワジ・アンダンテ〜モルト・メーノ・ヴィーヴォ〜アレグロ〜ピウ・ヴィーヴォ〜アレグロ・モルト〜プレストと次第に速くなるように設計されており、コーダで最高潮に達して、その後一呼吸置いて最初のテンポに戻る。このテンポの設定は、恐らく第5ソナタあたりからの漸次高揚して法悦の極みに達するという音楽理念を大胆に推し進めた神智学の音楽的解釈に基づくものであろう。なお、提示部でこのソナタの三つの構成要素が、いずれも遅く弱く提示される。(石田一志記)
菊池幸夫/連祷〜2台ピアノのための〜(改訂初演)
タイトル連祷は、祈りのように始まるかなりゆったりとした和音の連なりの動機による。祈りといっても教会や寺院におけるそれではなく、ごく日常の中にふとよぎる畏れの念というべきものである。その和音の連なりは全曲にわたりさまざまな形で現れる。作曲にあたり、和音が単に瞬間の音響効果にならず、いかに音楽の持続を担えるかに心を砕きつつ書き進めていった。
曲は起承転結の4つの部分からなる。まず冒頭の和音動機が徐々に動きを帯び旋律を紡ぎ出しながら高みへと達する第1部分、伸縮する和音動機と軽やかな線の動きが絡み合う第2部分、和音動機が解体し波打つようなアルペッジョ風の単旋律と形を変え駆け巡る第3部分、そして再び重々しく現れる和音動機とそれに対置する線のうねりによってクライマックスを形作る第4部分と続き、やがて冒頭の和音が厳かにそして静かに響きつつ曲を閉じる。
なおこの作品は2003年《Piano Duo Concert
2003》演奏会のために作曲、初演(ピアノ=小池ちとせ、土田英介)されたもので、今回のコンサートにあたり改訂を施した。(菊池幸夫記)
堀越 隆一/ふたつの島 〜 1.霧 2.風のなかで〜 /Two
Isles ~1. Mist 2. In the Wind~
作曲ノート
辺境の沖に浮かぶ二つの島は
時の移り変わりのなかで無言の対話を交わす
互いに呼応する響きのなかで
二つのピアノによって語られる物語(堀越隆一記)
ムソルグスキー:オペラ《ソロチンスクの市》より「若者の夢」(「はげ山の一夜」の原曲)
《ソロチンスクの市(正しくは「ソローチンツィの定期市」)》は、未完に終ったソルグスキー最後のオペラである。原作は、ゴーゴリが出身地のウクライナのフォークロアを集めた物語集『ディカーニカ近郊夜話』に収められている最初の物語。登場人物はウクライナの人形芝居からとられており、定期市を舞台に一組の男女がめでたく結婚するまでの滑稽な物語である。1874年から80年にかけて作曲されたが、3幕の舞台構成と台本の9割、ピアノ譜の6割を書き上げたのにとどまった。「若者の夢」は、第三幕で結婚式前夜に花婿が見る恐ろしい夢の場面の音楽で、1867年に管弦楽版第1稿が完成していた《禿山の一夜(正式には「禿山の聖ヨハネ祭の夜」)》が挿入された。(石田一志記)
山本純ノ介/ピアノのための絶対音楽 2番 /Absolute
musik f殲 Klavier Nr.2
<伝統の継承と離反による『汎音楽(はんおんがく)』>
創作においては、伝統の継承と、離反が必要だ。過去の偉人の追体験から生じる名作は多い。しかし、作曲は新しい『貌(かたち)』も同時に求められているので、離反や、飛躍、又は別系統の発想が欠かせない。
西洋音楽から発展した現代音楽は日本の音楽をはじめ様々な民謡、民族音楽を呑み込んで来たけれど、現在はグローヴァル化され過ぎて、あまりにも多種多様で方向感が稀薄だと感じている。『ピアノのための絶対音楽2番』の創作にあたり、久しぶりに音楽ソフトを駆使した。作曲にデジタル機器や音楽ソフトを最初に利用したのは1979年頃、学生の時だ。南弘明先生の研究室におしかけ、壁一面にあったローランドの製VCO,VCAを繋ぎ、ポリシンセサイザーをシーケンサーで一声部ずつ打ち込んで作った。また音色作りは特に興味深かった。正弦、矩形など波形にも興味を惹かれたが特にサンプリングホールドの回路に興味を覚えた。アナログの実作品を作曲する一方で、様々に電脳機器を利用した作品も手がけてきた。
今回は、アナログ(人)とデジタル(電脳機器)の双方でそれぞれ初演することを目的に作曲し、本日はアナログ(ピアニスト)による初演となる。楽譜は手書きのものは無く直接実際のピアノを利用し音楽を確認しながら作曲しつつ、コピー&ペーストなど編集機能を最大限に利用して記譜。作曲に際してはベロシティーをかなり細かく設定しながら進めたが、演奏者へ渡した楽譜はp,fなど古典的で一般的なダイナミック指示とした。(山本純丿介記)