ホームサウンドルート2008-II サウンドルート2008-II 曲目解説

平井正志/チェロとピアノのための<ラプソディ>…チェロ/加藤陽子、ピアノ/平川加恵

Masashi Hirai : Rhapsody for Cello and Piano(2003年初演)…Yoko KATO (Vc), Kae HIRAKAWA(Pf)

この世界には、苛酷な環境であるがゆえの美しさを備えた風景というものが存在する。例えば、高い山、深い海、あるいは燃えさかる天体、あるいは酷寒の天体のように・・・。それらは、人間の生存を許さないほどに厳しく、いかなる人知をも超越した抗いようのない力を容赦なく行使し続ける。そして、そういった風景が美しいのは力のゆえでも知恵のゆえでもなく、豊かであるが為でも純粋であるが為でもないのだろう。たぶん、ただあるがままである、というだけのことなのに違いない。すなわち、“美しい”という感慨の実体はその風景を見るこちら側、すなわち人間の側にあり、人間が我知らずに日々“生かされている”ということに対する際立った対照として、それらの風景に自身の心を投影することから美が生じている、というわけなのであろう。この曲が生まれることになった契機が私にとってのそうした風景であったということを、お聴きになられてもしも実感して頂けるならば幸いである。(平井正志記)

 

ミロスラフ・スコリク/弦楽四重奏曲…1st.ヴァイオリン/瀧村依里、2nd.ヴァイオリン/上敷領藍子、ヴィオラ/早川敦史、チェロ/木下通子

Myroslav Skorik : String Quartet…Eri TAKIMURA(1st.Vn), Aiko KAMISHIKIRYO(2nd.Vn), Atsushi HAYAKAWA(Va), Michiko KINOSHITA(Vc)

ソヴィエト連邦国立リヴォフ音楽院(当時、現在はリヴィウ音楽アカデミー)にて作曲をR.シモヴィッチ教授、A.ソルティス教授、音楽理論をS.リュドケヴィッチ教授に学び、同音楽院卒業後、モスクワ国立音楽院にてD.カバレフスキーのもとで研鑽を積む。リヴォフ国立音楽院、キエフ国立音楽院での講師を経て、現在はキエフ国立音楽院教授、リヴィウ音楽アカデミー作曲科主任。ウクライナ作曲家同盟議長。

『プロコフィエフの音楽におけるModal System』『20世紀音楽におけるAccordicsの構造と表現性』など多数の研究を行ってきた。現代音楽の国際音楽祭「コントラスト」やリヴィウにおける「アメリカ音楽デー」などの開催にも携わり、ウクライナ最大の音楽祭「キエフ音楽祭」の実行委員長を務める。彼の精力的な活動は高く評価されており、「ウクライナ国民芸術家」の称号を得る。スコリク氏は、「新民俗楽派」と称される、1960年代のウクライナ音楽界にて主流であった芸術運動の代表的一員として第一線に躍り出た。彼の作風は「ウクライナ民族音楽の色彩豊かな旋律と現代の演奏技術を結合させている」と形容されることが多く、彼の作品はウクライナや旧ソ連諸国のみならず、欧州全域及び米国、オーストラリアなど世界各地で演奏されている。世界有数の名作映画といわれる『忘れ去られし先祖の面影』(S.パラジャーノフ監督)のための映画音楽も大きな反響を呼んだ。近年の作品には、I.フランコの原作に基づくオペラ『モーゼ』やT.シェフチェンコの詩作に基づくカンタータ『ハマリア』、ヴァイオリン協奏曲第3, 4, 5番などがある。

弦楽四重奏曲 String Quartet

この曲は、スコリク氏米国滞在中の1992年に作曲され、同年、室内楽音楽祭「ミュージック・マウンテン」(米コネティカット州)にて初演された。2楽章形式をとるが、第1楽章『ラメント』には極度の精神の集中と内面的表現があり、対照的に第2楽章『ペルペトゥム・モビレ』ではトッカータのような主旋律が、アメリカのジャズ文化の影響が鮮明なジャズ風のエピソードと交互に登場する。

 

高橋 裕/六重奏曲「迦楼羅」…フルート/濱崎麻里子、クラリネット/武田友智、ヴァイオリン/瀧村依里、ヴィオラ/早川敦史、チェロ/加藤陽子、ピアノ/平川加恵

Yutaka TAKAHASHI : Sextet "Garuda"…Mariko HAMASAKI(Fl), Tomochi TAKEDA(Cl), Eri TAKIMURA(Vn), Atsushi HAYAKAWA(Va), Yoko KATO(Vc), Kae HIRAKAWA(Pf)

曲名の迦楼羅とは、サンスクリット語の“Garuda”の音訳で、それは有翼怪鳥の鬼神である。四天下の大樹にあり、また龍を獲って食す時、龍は悲苦の声を出すといわれる。京都三十三間堂の迦楼羅王は笛を吹いているが、この曲中でもフルートの“ヒシギ”(能管による高音による笛音)を何度か聴くことになる。静寂の天に、迦楼羅と龍が舞う様は恐ろしい。曲は大きく3つの部分に分かれている。それぞれの楽器は、次元の異なった響きを奏でながら一つの大きな宇宙を形成していく。

 

遠藤雅夫/弦楽四重奏曲 第1番 1995~7…1st.ヴァイオリン/瀧村依里、2nd.ヴァイオリン/上敷領藍子、ヴィオラ/早川敦史、チェロ/木下通子

String Quartet No.1 1995~7…Eri TAKIMURA(1st.Vn), Aiko KAMISHIKIRYO(2nd.Vn), Atsushi HAYAKAWA(Va), Michiko KINOSHITA(Vc)

1995年から7年にかけて作曲された作品である。個展を開催しそこで初演された。初演はモルゴ−ア・クァルテット=ヴァイオリン 荒井英治/青木高志、ビオラ 小野富士、チェロ 藤森亮一。かなり激しい作品である。うごめく細胞、明快な方向に進むリズム、純正律の響きを埋め込む縦の音響など、当時思い描いていたもの全てを投入した感がある。CDがナミレコードから出てる。WWCC-7353 公式ホームページhttp://home.t03.itscom.net/deskmyu/

 

アレクサンドル・シチンスキー /五重奏曲<思索への道>…フルート/濱崎麻里子、クラリネット/武田友智、ヴァイオリン/上敷領藍子、チェロ/木下通子、ピアノ/平川加恵

Alexander Shchetinsky : Way to Meditation… Mariko HAMASAKI(Fl), Tomochi TAKEDA(Cl), Aiko KAMISHIKIRYO(Vn), Michiko KINOSHITA(Vc), Kae HIRAKAWA(Pf)

ハリコフ芸術大学(現在のハリキフ芸術大学)にてV.ボリソフ教授に師事し、学生時代には作曲家V.ビビク氏からも大いに影響を受ける。以来、シチンスキー氏はハリキフ芸術大学にて教鞭を執る傍ら、精力的に作曲活動を続けており、ソロの器楽作品や室内楽曲から管弦楽曲やオペラなど、多岐に渡るその作品は国際的に高く評価されている。オーストリアやフランス、ポーランド、スイスなどにおいて、A.デュティユやM.ロストロポーヴィチ、K.ペンデレツキ、E.デニソフほか諸氏が審査員を務めた多くの国際作曲コンクールにて入賞、2000年にはオペラ『聖告』の革新性が評価され、ロシア舞台芸術賞『黄金の仮面』を受賞。シチンスキー氏の作品は欧州各国や北米にて頻繁に演奏されており、BBCウェールズ管弦楽団やポーランド国立ワルシャワ管弦楽団、アルディッティ弦楽四重奏団、ピアニストのY.ミハショフ、チェリストのA.ルーディン各氏など多くの演奏家がレパートリーとしている。E.デニソフやA.シュニトケ、A.ペルトなどのソヴィエト前衛主義作曲家や、新ウィーン楽派、そしてO.メシアンやG.リゲティなどの作風に影響を受けながら、シチンスキー氏は擬似セリーの組み合わせや音組織の魅力、表現の根源としての旋律などを基礎に、ポスト・セリー主義と称することもできる独自の作風を確立した。また、彼は特に東欧の作曲家によって多用されたミニマリズムの概念を吸収し、音程やリズム、音色の美妙な加減、そして音と静寂の異なるバランスなど、のこれを楽曲の随所に緻密に仕組んでいる。

<思索への道>Way to Meditation はアメリカの著名なピアニストであるY.ミカショフ氏の発案で1990年に作曲され、オランダ・アムステルダムの現代音楽センター『DJsbrecker』にて1991年に初演された。この楽曲はattaccaで繋がる二楽章から成るが、第1楽章は表現的であり、洗練された第2楽章は瞑想へと誘うかのようである。その双方にセリー主義およびミクロ・クロマティシズムの手法が用いられており、ffでの不協和音程からppでの1/4全音への段階的な移行は、リズム形や小動機の絶えざる変奏および発展、というこの楽曲の主たる特徴を示している。

 

セルゲイ・ピリュティコフ/弦楽四重奏曲…1st.ヴァイオリン/瀧村依里、2nd.ヴァイオリン/上敷領藍子、ヴィオラ/早川敦史、チェロ/木下通子

Sergey Pilyutikov : String Quartett…Eri TAKIMURA(1st.Vn), Aiko KAMISHIKIRYO(2nd.Vn), Atsushi HAYAKAWA(Va), Michiko KINOSHITA(Vc)

ハリコフ(現在のハリキフ)国立大学歴史学科を卒業後、A.シチェティンスキー氏のもとで作曲を学び始め、ハリキフ芸術大学で研鑽を積む。1993年には、ソプラノと5人の奏者のための作品『川の声』がガーデアムス作曲コンクール(オランダ)にて入選し、ガーデアムス音楽週間にてクセナキス・アンサンブルによって演奏されたことで国際的な舞台に迎え入れられた。1999年よりキエフ在住で、ウクライナの若手演奏家の有志を募り現代音楽アンサンブル『リコシェット』を組織する。2000年にはウクライナ作曲家連盟主催のキエフ青少年国際音楽フォーラムの座長を務めた。

ピリュティコフ氏の作品は、ベートーヴェン音楽祭(ボン、この際 Deutsche Welle Composition Awardの第1位を受賞)や音楽祭『コントラスト』(リヴィウ)などのプログラムに組み込まれており、この他にも欧州各地や米国、南米、ロシア、ウクライナ国内などにおける公演で演奏されている。現代音楽奏者として名高いD. Bl殞, R.van Raat各氏やMoscow Contemporary Music Ensemble, Ensemble f殲 Neue Musik Z殲ich, ウクライナ国立交響楽団などが自らの公演プログラムに積極的に採り入れている。ヴィオラのための『変奏曲』やサクソフォンのための『ソナタ』などが国際的な作曲コンクールにて入賞し、注目を集めた。ウクライナ作曲家同盟事務局長。

弦楽四重奏曲 String Quartet

この曲は、多様な音楽様式や音楽的要素が相互に関連しあって登場する、激情的な作品である。テクスチュアの絶え間ない展開および変奏は、ロマンティックな協奏曲であるかのような空間を創出し、演奏者各々には、超絶技巧的ソリストであると同時に熱情的なパフォーマンスの参加者となることが求められる。

ピリュティコフ氏はこの楽曲に大いなる形而上学的な意味を持たせており、楽曲中においては19世紀以降の様々な年代の音楽的要素やリズム・パターンを効果的に対比させている。

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