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2013年11月28日(木)18:30(18:00開場)
現代作品演奏会 開催レポート
(日本・ロシア音楽家協会 2013-II)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 12月を目前に控え、イルミネーションが表参道の夜空に輝く中、パウゼでは≪日本・ロシア音楽家協会2013-II 現代作品演奏会≫が開催されました。日本とロシア両国の素晴らしい作曲家たちが垣間見せてくれる多様な美の世界。味わいの深い貴重な一夜となりました。

 冒頭を飾ったのは、佐藤まどかさんのヴァイオリンと松本卓以さんのチェロによるアルフレッド・シュニトケの≪静寂の音楽≫。没後15年を迎え今回この作品を拝聴することができ、もはや古典的巨匠であるとの思いを一層強くしました。まるでマーラーの壮大な緩徐楽章を極限までそぎ落としたような静謐な音楽。少しづつ互いに確かめ合うように重ね合わされる弦と弦、時折現れる時を刻むピッツィカート、ヴァイオリンのグリッサンドで天に消え入るような終わり方も感慨深いものがありました。

 続いて演奏されたのは、西尾洋さんの≪トッカータ≫(世界初演)です。佐藤さんのヴァイオリンと鈴木生子さんのバスクラリネットによる弦と管のアンサンブルの妙と構成感が明快な器楽作品。プログラムノートにも記されていた通り、「トッカータ」には古くはフレスコバルディから現代に至る変遷の歴史があります。その歴史に通底する本質が浮き彫りにされているようで大変興味深く聴かせて頂きました。

 フランギス・アリ=サデーさんの≪独走チェロのためのモOyan!モ≫では、松本さんとチェロが「対話している」と言ったほうがより適切と感じられるような非常に刺激的でチャーミングな作品。モOyan!モとは「目覚めよ!」を意味する呼びかけなのだそうです。さまざまな奏法やリズムが奏者の裁量にも委ねられながら意欲的に折り合わされ、懐深くユーモラスなチェロの魅力が自然に引き出されていました。

 セルゲイ・マスカエフさんの≪ピアノソロのためのモStatesモ~Five plays≫(日本初演)は、無題の独立した5つの小品から成る作品ですが、たとえばプロコフィエフの≪束の間の幻影≫などに比べると現代ならではの重厚なハーモニーが印象深い作品。松山元さんの集中度の高いピアノも表現の豊かさと共に作品の格調高い魅力を伝えていました。

 小休憩を挟み第二部は弦楽ソロ作品構成。まず、佐藤さんのヴァイオリンによる二宮毅さん≪静寂の林にて≫は筆者もいろいろと連想を膨らませながら楽しませて頂きました。プログラムノートによれば、この作品は15年前二宮さんが20代後半の頃の作品だそうで、その頃の「感傷的な」思いが詰まっているのだそうです。静謐さという点では冒頭のシュニトケ作品を連想しますが、より簡素で内面的な音楽。さすらうような情感と共に未来への憧憬や不安も美しく感じられました。

 続く、遠藤雅夫さんの≪ヴィオラのために≫(世界初演)では、まるでバロックのパッサカリアのような明快な和声と全音階が会場に爽やかな息吹を注ぎ込みます。単なる過去の繰り返しではない現代作曲家の凝らされた意匠。そして、ヴィオラという楽器に対する遠藤さんの思いや奏者に対する作曲家の優しさがここかしこから伝わってきました。演奏された佐々木友子さんの演奏も大変意欲的で、作曲者の思いに応えるすばらしいものでした。

 安田謙一郎さん自作自演のチェロのための≪三つのコラール≫はいずれも珠玉の小品でしたが、筆者がとりわけ感銘を受けたのは第三曲。「災害により飛べなくなった鳥たちの声」をチェロが特殊奏法で奏でます。途切れ途切れにかすれて遠くから響いてくる音色はまさに翼をもぎ取られた鳥たちの悲痛な歌そのもの。その痛ましい情景と裏腹にぞっとするほどの美を感じました。

 第三部はいずれも世界初演で、まず最初に先ほどのソロに引き続き安田さんの(松山さんのピアノとのデュオによる)≪なぜかSumer time≫。ラフマニノフの生誕140年に際して作曲されたそうですが、有名なヴォーカリーズのメロディーを髣髴とさせる旋律とガーシュウィンの「サマータイム」を連想させる楽想が折り合わされ独特な雰囲気が醸し出されます。全体の雰囲気はサティやケージのある種の作品をイメージしましたが、過ぎ去った美しい時代への眼差しがお洒落に表現されていました。

 福田陽さんの≪ピアノソナタ第一番≫は、表題の通りしっかりとした構成を持つ文字通りの「ソナタ」。充実した壮年において敢えて冠された「第一番」に相応しく、壮大な単一楽章に施された現代的で豊かな響きを堪能しました。志村泉さんのクリアーなタッチと明快な構成感もとても見事で、現代においても「ピアノソナタ」は生きていることを再認識致しました。

 最後は、再び安田さんと松山さんが登場され、佐藤眞さんの≪チェロとピアノのためのモエレジーモ≫が演奏されました。佐藤眞さんと言えば合唱曲≪大地讃頌≫で一般にも広く知られている方ですが、佐藤さんの所謂「現代作品」をライヴで聴かせて頂くのは筆者も初めてこの機会が非常に楽しみでした。「3.11以後」の時代の雰囲気や人々の置かれているやるせない状況が作曲の背景にあるとのこと。チェロの滋味深い表現が洗練を極めたピアノのハーモニーの乗せられて歌いあげられる「エレジー」には大変心を揺さぶられました。

 現代音楽の演奏会というと「前衛」というイメージが一般に先行しがちですが、筆者の印象では今回の演奏会は全体的に失われた過去への憧憬が色濃く、日々目まぐるしい時代の変化に晒されながら「時」に思いを馳せる現代人の感情の機微がとても身近に感じられました。会場に集われた多くのお客様の惜しみない拍手と共に、筆者もまた共感と称賛の思いを会場に送らせて頂きました。

(G.T)

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