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ロシア現代音楽協会(ACM)との作品交流演奏会 2012−I 開催レポート
2012年11月15日(木) 18:30開演(18:00開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

  リハーサル風景

 日露合わせて九人の現代作曲家による「ロシア現代音楽協会(ACM)との作品交流演奏会」が開催されるということで、新世界への旅の予感に誘われて今晩はパウゼに出かけてきました。会場はほぼ満席。若いお客様も多く見られ期待の高さが窺われます。

 コンサートの冒頭を飾ったのは安田謙一郎さんの「月をさがしにいく」です。ヴァージナルのキラキラした響きと懐の深いチェロのコラボレーションがとても精妙で、コンサートの開幕に相応しい独特の幻想空間を紡ぎ出していました。

 続く平井正志さんの「無伴奏フルートの三章」は、フルートのサロン的で華やかな一般的イメージを一変させる荒々しい野性的な表現。泉真由さんの熱演が会場を沸かせました。

 第一部のクライマックスは、クラリネットとピアノによるドミートリ・カプィリンさんの「2奏者の為の音楽」です。これは互いの楽器が同じモチーフを巡って一つ一つ響きを確かめ合いながら対話を交わしていく一種の器楽劇で、プログラムノートによると内容はなんと「ラヴストーリー」だそうです。ロマン派とは異なる意味でのロマンティックな情景が大変甘美でした。

 休憩を挟んで第二部はヴィクトル・エキモフスキーさんの「月光ソナタ」によってはじめられました。この作品はいわば標題音楽として「偉大なる古典派作曲家の有名ソナタ」と直接的な類縁性こそないものの、清らかな月光が黒々とした波の表を照らし出すといったまさに「月光」の根源的なイマージュが極めて格調高く表現されていました。矢澤一彦さんのピアノも作品の世界に没入した繊細かつ情熱的なもので、筆者もしばし我を忘れて「月光」の神秘的な光景を堪能させて頂きました。

 続いて西尾洋さんのヴァイオリン独奏のための「阿吽」です。単音をノンヴィヴラートで淡々と積み重ね最後に俄かにテンポアップして閉じられるというシンプルなスタイルによりますが、安易な「節」に落ち着かない遊び心が心地良く感じられました。

 そして、ジャズからもインスピレーションを得たと言われる堀越隆一さんの「ソノリチュード II」。有馬理恵さんのクラリネット独奏によって表情豊かに歌い上げられ第二部が幕となりました。

 コンサートもいよいよ終盤。第三部の冒頭は久行敏彦さんの「風の詩 III」です。どこまでも続く真っ白な雲と青い空を背景に聳え立つ何時の時代のものとも知れぬ不思議な建築物。ダリの絵画作品などでしばしば表現されているような空間性に飛んだ幻想風景が目に見えるかのような印象的な作品で、ハーモニーやリズム、構成も新鮮でした。ピアノとチェロでそれぞれに吹き抜ける「風」が美しく巧みに表現されていてアンサンブルも見事でした。

 田中範康さんのクラリネットピアノのための「無言歌」は、比較的伝統的なハーモニーと旋律(といってももちろん現代的ですが)において楽器の持つ自然な表現の可能性を追求した作品と言ってよいでしょう。奇を衒わない着実な音楽作りが味わい深い世界を作り出していました。

 そして、コンサートはアレクサンドル・ウズティンさんのピアノトリオによって思いがけないクライマックスを迎えます。ヴァイオリンとチェロの特殊奏法による不気味な「対話」と悪魔の鐘のようなピアノの音色が一種魔術的な美の世界を描き出します。数学的に緻密に組織された厳密な楽曲構成がいわば「魔法陣」を形成しているためなのか、作品からは何とも言えぬ奥行と神秘性が感じられました。

 過去の聴きなれたレパートリーに親しむのとはまた違った音楽の新たな味わい。今晩は九人の作曲家による九つの作品を一夜に堪能することができましたが、現代音楽はまさに十人十色。新たな出会いを求めて、またコンサートに出かけてみようと思います。

(G.T.)

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